思えばこの秋は随分と気まぐれで。
まだ八月のすぐお隣りだったころに、
いきなり上着が要るような冷え込みがやって来て、
残暑って何?と言いたくなるような秋めきが
駆け足で躍り込んで来たりもしたし。
そうかと思えば、
ほんのつい先日なんて 十月並みの陽気とやらが何日も続き、
小春日和なんて可愛いもんじゃない温かさが居座って、
陽が落ちてからの用心にと持って来た上着が
終始お荷物になってた日が何度もあったほどなのに。
「一応、これが今時分の平均気温らしいがな。」
「もっとこう、じわじわ寒くなってくれねぇかな。」
ほんの昨日まではTシャツとカーディガンでしのげたものが、
いきなり、吐息が白くなるほどの寒さに急降下。
慌ててコートじゃダウンジャケットじゃを引っ張り出し、
スヌードとかいうネックウォーマーに手を伸ばしたり、
マフラーのスマートな巻き方を思い出せなくて、
冗談抜きにネットで検索した人もいたようで。
「アパレル業界はホッとしたらしいぞ。
今年はダッフルもチェスターも
コートはロングが流行りって打ち出してたから、
それがや〜〜〜〜っと捌けるってよ。」
さすがは 副業で子供モデルなんてのもやってる小悪魔軍曹様が、
アーミー仕様のフライトジャケットぽいデザインの、
けれどフードの縁取りにたっぷりとファーの縁取りがついた
クールなんだか可愛いんだかというジャケットに、
インナーはタートルネックのモヘアのセーター、
ボトムにはツイードっぽいパンツを合わせたという
金髪が映える カッコかわゆいいでたちながら、
そんな一丁前なご意見を口にして。
部員のお兄さんたちのお喋りに調子を合わせてたようにも聞こえるが、
まだまだ小さなお手々には、
コーチサイドのお役目をうかがわせるよに、
何やら書類を挟んだバインダーをたずさえててもおり。
「…で、お前ら何枚着込んで来た。」
どうやら、端から言ってみろとの構えなようで。
部室の前にてのいきなりの検査に、
「えっとぉ。
上はインナーにTシャツにトレーナーにジャケットの4枚で。」
「俺、機能性下着 着てっから3枚だ。」
素直に応じるお兄さんたちもお兄さんたちで。(笑)
余程にだらけでもしない限り、
スマホをハッキングされるとか
一人住まいのアパートに何か仕掛けられるなどという
性の悪いお仕置きも降り掛かりはしないのだと学習したか、
すっかりとこういう相性が刷り込まれておいでな模様。
「使い捨てカイロは枚数に入んのかな?」
「カイロは2枚相当だ、このヤロが。」
機能性のズボン下が結構来ててよ。
あ・判る判る、俺も履いてる。
バイクって風に叩かれっから太ももが寒いんだよな、なんて。
仲間内で“あるあるネタ”を持ち出して沸いてるのを見やり、
「あのなぁ。運動不足なOLじゃねぇんだぞ?」
バイクに乗ってる時の耳当てやズボン下って装備はさすがにしょうがないとして、
それでなくとも上背のあるのがごろごろといる顔ぶれが、
むくむくもこもこ着ぶくれて集まってる図は、
“…どっちかってぇと冬ごもりを控えたヒグマの集団みてぇだが。”
葉柱さんまで何言ってますか。(笑)
あとで軍曹様から、ヒグマはもっと身ごなしがシャープだとか言い返されますよ?
…じゃあなくて。
本来檄を飛ばす立場の主将殿も、
こういう細かいことへまでくだくだ口を出すのは柄じゃあないらしいし、
第一それだと風格や威容が玉なしなので…と思ったかどうか。
やれやれとこれ見よがしにかぶりを振って見せた、小さな鬼軍曹様。
「着込んでねぇで体動かして、とっとと体温上げやがれっ!」
「どひゃあ!!」
罵声ごときで飛び上がりはしない。
どこに隠してあったやら 毎度おなじみBB弾装填のマシンガンが
じゃきりと小さなお手々に握られたそのまま、
しゃかかかかか…っという景気の良い射出音と共に
BB弾を勢いよく飛び出させ。
一旦は あわわと後退したごっついガタイのお兄さんたち、
手際よくドア前から移動した坊やの誘導に乗っかって、
部室の中へと追い立てられる。
そろそろ秋の星取り戦も終盤戦で、
上のリーグへの入れ替え戦に挑まにゃならない皆々様。
風邪や怪我には気をつけてねと、
グラウンドの隅に植えられた山茶花の緋色の花がほころんでいた
寒い初冬の昼下がり。
〜Fine〜 15.11.27
*暖かだったり寒くなったり、
何だか妙な冬の入り口で。
これが春を待つころの現象なら、まだ我慢のし甲斐もありますが、
そのまま寒くなるばかりな頃合いなので、
中途半端に暖かくなるのも考えものかもですね。
めーるふぉーむvv
or *

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